SS03: 福祉機器の実用化とイノベーションに向けて

オーガナイザ:
井上淳(東京電機大学)
  三宅徳久(パラマウントベッド)
  初雁卓郎(パラマウントベッド)
概要:
平成25年6月に閣議決定した日本再興戦略において、ロボット介護機器開発5か年計画が明示された。それに基づいて新しい様々な福祉機器が企画・開発されているが、イノベーションには道半ばである。そこで本セッションでは、福祉機器に携わる様々な立場の方から見た現状と課題、今後の施策を共有・ディスカッションして、イノベーションのうねりを生み出すきっかけとする。
座長:
パラマウントベッド(株) 三宅徳久
プログラム:
9:00-9:12 (ユーザから研究へ)大学が実践する現場を意識した福祉機器開発とは?
東京電機大学  井上淳
    福祉機器を研究・開発する中で、発表者自らが一時下半身麻痺になった経験から、臨床現場の声を重要視することを常に意識してきた。臨床現場では利用者と開発者の間に、中間利用者ともいうべき医師や理学療法士・作業療法士・看護師などが介在する。そういった中間利用者が福祉機器の利用に関わる場合、単純に「効果がある」「コストが下がる」というだけではなく、中間利用者の工学的なモノの活用方法への理解,使用する場面を想定したものづくりの重要性の必要性を強く認識する必要がある。そこで今回は、現場を意識するということについて、開発中の歩行訓練機を実例として発表を行う。
9:12-9:24 (研究から企業へ)大学が実践する大学研究成果の活用とは?
東京電機大学 研究推進社会連携センター 亀井隆夫
    医療・福祉機器の実用化に向けた技術的な研究は各研究・開発者において行っているが、多様な要素技術があり、大学で一人の研究者の研究成果だけでは、速やかに社会へ医療・福祉機器を出していくのは容易ではない。一般的な技術移転フローは、企業と共同研究の後、企業にて事業化を行う。しかし、複数の要素技術の導入や補間すべき技術が必要なケースが多く、なかなか事業化までたどりつかない。そこで、各大学で産学連携部門がネットワークを構築し、コーディネータが大学または研究機関との連携である「学学連携」を構築し、これらの要素技術を提供する活動を行っている。この活動を行っている【大学知財群活用プラットフォーム(PUiP)】の活動を、大学研究成果の活用の1例として紹介する。
9:24-9:36 (企業のものづくり)企業が実践するユニバーサルデザイン推進の取り組み
花王(株) UD推進室室長 佐野裕
    花王は消費者相談窓口に届いたお客さまの声に着目し、盲学校の生徒さんの触って分かる工夫をヒントに1991年にシャンプー容器に触覚識別記号「キザミ」を付与した。その後業界各社の賛同を得て、日本で生産されるほとんどすべてのシャンプーにこの記号が付与されることになった。四半世紀を経て、2014年には全身洗浄料にもこの触覚識別記号の考え方は広がっている。2011年にはユニバーサルデザイン(UD)指針を策定し、全社でUD推進に取り組んでいる。わかりやすく使いやすい、「人にやさしいモノづくり」を実践すると共に、製品を通じて人と人、人と社会をつなぐ役に立つ「人や社会とつながるモノづくり」を目指している。本発表ではキザミが社会に広く周知され実施された過程についても紹介する。
9:36-9:48 (企業のエビデンスづくり)企業が実践する販売促進に向けたエビデンスとは?
パラマウントベッド(株) 技術開発本部 研究開発部 担当課長 初雁卓郎
    介護現場を支援する製品開発を進める上で、介護ロボットの開発を中心にしてICF(国際生活機能分類)を基本的な考えとし、福祉機器はこの環境因子として心身機能・活動・参加に影響を与えるものと捉える考え方が浸透してきた。今後は、現場における福祉機器の実運用を視野に入れた製品作りと現場で求める真のニーズに即したエビデンスを提示することが、新たな福祉用具の普及拡大に寄与すると考えられる。そこで今回は、病院や高齢者施設で大きな課題のひとつである転倒転落事故への対策として提案した離床センサを例に挙げ、有用な製品の開発と普及に向けた取り組みを紹介する。
9:48-10:00 (価値をユーザーへ)福祉機器の導入における意思決定の支援
産業技術総合研究所 梶谷勇
    福祉機器の開発から社会実装までを「情報」をキーワードに解析している.情報に関する3つの要素{伝達,理解,質}について先行研究から得られる知見をもとに,機器開発者側が入手すべき情報と発信すべき情報,機器使用者側が入手すべき情報と発信すべき情報についてまとめている.その中でも,新規に機器を導入する際の意思決定支援の必要性について,その背景を中心に概説する.
10:00-10:30 パネルディスカッション
モデレーター  パラマウントベッド(株) 三宅徳久
    本セッションで得られた多角的な視点を元に,セッションの発表者5名によってディスカッションを行う。実用化とイノベーションにおける様々な問題点を,大学研究者,大学知財部門,企業のユニバーサルデザイン推進室,企業の研究開発部,国立の研究開発法人のそれぞれの立場から,今後の施策を共有・ディスカッションすることで、イノベーションのうねりを生み出すきっかけとする。